『メグレと若い女の死』ジョルジュ・シムノン、北村良三・訳(早川書房)

今年の夏に復刊されたので、買いなおす。去年のシムノン生誕100年にあわせて出すか、青山剛昌のカバーで文庫化してくれれば良かったのに。


これを読むのは三度目だけれど、やっぱり面白い。
今回、メグレは二人の人物に悩まされることになる。一人は被害者。彼女は何者で、何故殺されたのか?もう一人はロニョン。人は彼を“無愛想な刑事”と呼ぶ。
ロニョンというのはパリの第二地区警察の刑事で、司法警察(日本の警視庁のようなものか)の警視であるメグレの直属の部下ではないが、第二地区で起きた事件でもメグレが担当すれば一時的にメグレの部下ということになり、それがロニョンには面白くないのである(ロニョンはメグレに代表される司法警察すべての人間を憎んでいる)。
心優しいメグレは、実は非常に有能でありながらチャンスに恵まれず平刑事に甘んじているロニョンを気の毒に思っているので、他の部下にはみせない思いやりをもってロニョンに接しているのだが、被害妄想の気味があるロニョンはすべてを悪い意味に受け取ってしまう。
この二人のやりとりには、腹をかかえさせられた。


やがて明らかになる被害者の素性。
何も良いことが無いまま短い命を終えた女の人生と、今までと同様これからも良いことの無さそうなロニョンの人生とのダブルパンチで、読後暗〜い気分に浸ることができた。