『自由酒場』ジヨルジユ・シメノン、伊東鋭太郎・訳(サイレン社『倫敦から來た男』所収)

日本で出版されたメグレ警視シリーズの中で、最も入手困難と言われている本。昭和11年に刊行されて、なぜか同じ年にアドア社から出し直された(書名は『倫敦から來た男・自由酒場』らしい)が、戦後は一度も再刊されていない。『倫敦から來た男』だけは戦…

『空中スキップ』ジュディス・バドニッツ、岸本佐知子・訳(マガジンハウス)

空中スキップ作者: ジュディ・バドニッツ,岸本佐知子出版社/メーカー: マガジンハウス発売日: 2007/02/22メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 38回この商品を含むブログ (55件) を見るこのまま奇想コレクションや異色作家短編集に入ってもおかしくない、ヘ…

『どんがらがん』アヴラム・デイヴィッドスン、殊能将之・編(河出書房新社)

デイヴィッドスンは、昔ソノラマ文庫で出てた『10月3日の目撃者』があんまり面白くなかった記憶があるが、これは読んでて愉しい粒ぞろいの傑作集。奇想コレクションの中で一番気に入った。 数年前SFマガジンで読んでデイヴィッドスンに対する認識を改めさ…

「ダヤン」ミルチャ・エリアーデ、住谷春也・訳(『エリアーデ幻想小説全集・第3巻』作品社)

数学の天才にして、黒い眼帯をしているせいで“ダヤン”と呼ばれる大学生オロベテは、ある日“さまよえるユダヤ人”を名乗る老人に出会う。その老人は、不思議な力を使ってダヤンの左右の目を取り換えてしまうが、そのためにダヤンは秘密警察から目を付けられて…

『シャグパットの毛剃』ジョージ・メレディス、皆川正禧・訳(学研M文庫『ゴシック名訳集成 暴夜幻想譚』)

大志を抱く床屋の青年シブライは、謎の老女からシャグパットという男の髪を剃ることができれば栄達まちがいなしと予言されてその気になるが、それが天地を揺るがす大闘争を意味するとは思いもしなかった……という、英国製アラビアン・ファンタジー。 この本の…

『白髪小僧』夢野久作(ちくま文庫『夢野久作全集1』)

昔あるところに、白髪小僧と呼ばれる白痴の浮浪者がいた。ある日、白髪小僧が銀杏の樹の下で昼寝をしていると、溺れかけている少女の悲鳴に起こされた。白髪小僧に助けられた少女・美留女は手に『白髪小僧』という本を持っていて、小僧のことは全てこの本に…

『リピート』乾くるみ(文芸春秋)

『SFが読みたい!』の作品紹介で、『マイナス・ゼロ』や『タイム・リープ』に連なる傑作というふうに誉められてたので買った。それらのように、時間旅行で生じた矛盾のつじつまを合わせるパズルのような話かと思ったら違ったが、意外な展開で、これはこれで…

『メグレの回想録』ジョルジュ・シムノン、北村良三・訳(早川書房『世界ミステリ全集9』)

メグレのモデルになった(という設定の)“本物のメグレ”による回想録。シムノンの描写や、映画の配役に対して文句をつけてるのが笑える。 ほとんど小説内のメグレと同一人物と見なして差し支えなさそうだが、わざわざメタな手法を使ったのは、小説に描かれる…

『暗い国境』エリック・アンブラー、菊池光・訳(創元推理文庫)

スパイ小説の大家エリック・アンブラーのデビュー作(1936年)。 イギリス人物理学者ヘンリイ・バーストウ教授(40歳)は仕事のし過ぎで医者から、神経衰弱になりたくなければ休養しろと命じられる。旅行先のホテルで、居合わせた兵器会社の社員からイクサニ…

『アジアの岸辺』トマス・M・ディッシュ、若島正・編(国書刊行会)

シャーリイ・ジャクスンやパトリシア・ハイスミスを思わせるブラック・ユーモア小説と、バカなアイディアを元にした奇想小説からなる傑作短編集。「降りる」と「リスの檻」は以前に読んでいた。どれも面白く、ハズレがない。全てに作者の性格の悪さがにじみ…

『生ける屍』ピーター・ディキンスン、神鳥統夫・訳(サンリオSF文庫)ネタバレあり

不気味な表紙や、「国家のあり方」がどうのという解説のせいでシリアスで暗い話かと思ってたけど、けっこう笑える小説だった。 恋人から、「仕事をとったら“生ける屍”にすぎない」と言われるほどのワーカホリックのフォックスは、半分休暇のつもりでカリブ海…

『白い果実』ジェフリー・フォード、山尾・金原・谷垣・訳(国書刊行会)

三部構成で、第一部・第二部は非常に面白い。第三部はまあまあ。奇妙なガジェットが魅力。特に改造人間が気に入った。 舞台はマッド・サイエンティストが支配する架空の国。辺境では魔物が跋扈し、抗夫が石化するなど、我々の知る世界とはかなり違っている。…

『アリスの教母さま』ウォルター・デ・ラ・メア、脇明子・訳、橋本治・絵(牧神社)

収録作品:「謎」「お下げにかぎります」「ルーシー」「アリスの教母さま」 アンソロジー・ピースの「謎」が名作なのは当然だが、「ルーシー」もそれに劣らぬ傑作。「お下げにかぎります」も面白い。「アリスの教母さま」も悪くない。 主人公にしか見えない…

『メグレと若い女の死』ジョルジュ・シムノン、北村良三・訳(早川書房)

今年の夏に復刊されたので、買いなおす。去年のシムノン生誕100年にあわせて出すか、青山剛昌のカバーで文庫化してくれれば良かったのに。 これを読むのは三度目だけれど、やっぱり面白い。 今回、メグレは二人の人物に悩まされることになる。一人は被害…