『白い果実』ジェフリー・フォード、山尾・金原・谷垣・訳(国書刊行会)

三部構成で、第一部・第二部は非常に面白い。第三部はまあまあ。奇妙なガジェットが魅力。特に改造人間が気に入った。 
舞台はマッド・サイエンティストが支配する架空の国。辺境では魔物が跋扈し、抗夫が石化するなど、我々の知る世界とはかなり違っている。読み進むにつれ違っているのはそういった道具立てだけではなく、この世界では“現実”そのものが揺らいでいるのではないかと思われてきた。

第一部は、ほとんどドタバタ小説。傲慢で、ちょっと抜けていて、何でも自分に都合よく解釈する男の一人称というところは、森見登美彦の『太陽の塔』を連想した。この調子で最後まで突っ走るのかと思っていたら、途中で主人公の性格が変わってしまって残念。あまりにも急に変わるので、別人と入れ替わったのではないかと思ったほど。
第一部での“現実の揺らぎ”は、薬物中毒の主人公の妄想と現実との境界がさだかでないせいと解釈できるが、第二部では現実の出来事が(そのことを知らないはずの)ある人物の内面に直接的な影響を与え、第三部では支配者の精神状態が理想形態都市に反映されたりする。こういったところは、フィリップ・K・ディックの小説を連想させられた。

この世界では何が普通で何が異常なのかも良く分からないのに加え、記述者も信用できず、記述者の理解を超える出来事まで起こったのでは読者はとまどってしまう。この鼻面ひきまわされるような感覚は独特なもので、なかなか愉しかった。