『白髪小僧』夢野久作(ちくま文庫『夢野久作全集1』)

昔あるところに、白髪小僧と呼ばれる白痴の浮浪者がいた。ある日、白髪小僧が銀杏の樹の下で昼寝をしていると、溺れかけている少女の悲鳴に起こされた。白髪小僧に助けられた少女・美留女は手に『白髪小僧』という本を持っていて、小僧のことは全てこの本に書かれているという。その本をめぐって青い眼の老人に追いかけられる二人。力つきて倒れた白髪小僧が目を覚ますとそこは藍丸国で、小僧はその国の王になっていた。その頃、美留女もまた藍丸国の大臣の娘・美紅として目覚め、美留女としての記憶は夢だったのだろうかと悩んでいた……。


何重にも及ぶ入れ子構造を持った東洋風異世界ファンタジー(未完)。
いちおう主人公の白髪小僧は途中で姿を消し、罪も無い善良な人々が無残な死を遂げ、ジャンプの打ち切りみたいなヤケクソなラストと、よくこれが童話として出版されたものだと思う。面白いけど、あんまり子ども向けではないような。
上に何重にも及ぶ入れ子構造と書いたが、ざっと読んだだけでは白髪小僧がいた元の世界と藍丸国とのニ重構造に見えるかもしれない。しかし、そこは『ドグラ・マグラ』の作者のこと。上に書いたあらすじの部分だけでも、『不思議の国のアリス』のように冒頭の昼寝から白髪小僧は目を覚ましてなくて、全ては小僧の夢なのかもしれない。また、美留女が『白髪小僧』を読んでいくと“現在”に達したところで本が白紙になってしまうが、そのこともまた作中作の『白髪小僧』の中の出来事なのかもしれない。
舞台が藍丸国に移った後も、途中から話が作中のキャラの語る物語にすりかわっているように思えるところがあったり、脇役の夢が(目覚めるまで夢だと明かされずに)割り込んで来たりする。未完に終わったのも、あんまり複雑にしすぎて収拾つけられなくなったからじゃないかなあ。