『アジアの岸辺』トマス・M・ディッシュ、若島正・編(国書刊行会)

シャーリイ・ジャクスンやパトリシア・ハイスミスを思わせるブラック・ユーモア小説と、バカなアイディアを元にした奇想小説からなる傑作短編集。「降りる」と「リスの檻」は以前に読んでいた。

どれも面白く、ハズレがない。全てに作者の性格の悪さがにじみ出ているような気がする。表題作や「カサブランカ」のようなシリアスな話のほうが印象が強いが、「死神と独身女」や「犯ルの惑星」のようなバカな話をもっと読みたい。奇想コレクションあたりから、もう一冊出ないかな。

SFというより“奇妙な味”の小説集で、早川書房の異色作家短編集に入っていても不自然でない。編者はミステリマガジン2001年1月号の「特集・異色作家ふたたび」で、新たに異色作家短編集を企画するとしたらということで17人の作家を選んでいて、その中にディッシュも入っている。ちなみに17人のうち2001年以降に日本で短編集が出た作家は、他にはスタージョンジェラルド・カーシュ奇想コレクションで出る予定なのがウィル・セルフ。2001年以前に出てたのがラファティ“Strange Doings”『つぎの岩につづく』。


私の一番好きなディッシュの作品は、編者もあとがきでディッシュの最高傑作と書いている『歌の翼に』。私が読んだサンリオSF文庫の中では『エンパイア・スター』『ハローサマー、グッドバイ』『サンディエゴ・ライトフット・スー』と並ぶ傑作。ディッシュの大人向けの作品には珍しい“いい話”だが、オチに作者の性格の悪さが表れている。