『どんがらがん』アヴラム・デイヴィッドスン、殊能将之・編(河出書房新社)

デイヴィッドスンは、昔ソノラマ文庫で出てた『10月3日の目撃者』があんまり面白くなかった記憶があるが、これは読んでて愉しい粒ぞろいの傑作集。奇想コレクションの中で一番気に入った。
数年前SFマガジンで読んでデイヴィッドスンに対する認識を改めさせられた「そして赤い薔薇一輪を忘れずに」と、ひねくれたミステリ「すべての根っこに宿る力」と、バカSF「さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」が特に良かった。
「さもなくば〜」は以前「あるいは牡蠣でいっぱいの海」(常盤新平・訳)を読んだときは凡作としか思えなかったけど、今回読み直したら印象がかなり違った。それはたぶん、終わり近くの自転車店主のセリフが違っているせいだろう。

常盤訳(アイザック・アシモフ編『ヒューゴー賞傑作集No.1』早川書房より)

「ああ、あれですか。古いフランス型の?ひゃ、あれはポンコツ屋行ですよ!」

若島正

「ああ、あれですか。あの老いぼれのフランス馬ね。あれはもう種馬にしてやりましたわ!」

常盤訳だと自転車店主が共同経営者の発見した恐るべき事実を否定しようとしているように読めたけど、若島訳だとそれを理解してるのが明確になって、結末の黒さが増していると思う。