『シャグパットの毛剃』ジョージ・メレディス、皆川正禧・訳(学研M文庫『ゴシック名訳集成 暴夜幻想譚』)

大志を抱く床屋の青年シブライは、謎の老女からシャグパットという男の髪を剃ることができれば栄達まちがいなしと予言されてその気になるが、それが天地を揺るがす大闘争を意味するとは思いもしなかった……という、英国製アラビアン・ファンタジー


この本の刊行予告を見るまで聞いたことの無い作品だったけど、予想以上に面白かった。
物語が始まって30ページ程のところから、主人公の語る「美人バナヴァー」の話になって、これが100ページ以上も続くのでどうなることかと思ったが、それ以降はおおむね普通にストーリーが進む。この「美人バナヴァー」だけで独立した中編になっていて、本編に劣らぬ傑作。この部分は私がイメージする「ゴシック小説」(暗黒小説)っぽいが、本編のほうは奇想天外で明るい、剣と魔法の一大ファンタジーだった。
リン・カーターは『ファンタジーの歴史』の中で、この作品の文章について「さしものファンタジー狂も、その読みにくさには随所で音をあげるだろう」(27p.中村融・訳)と書いているが、講談調の訳文は読みにくくはなかった。「八幡不知の小社と見える」(499p.)といった見慣れない表現が出てくるが、それもまた愉しい。