横山光輝『狼の星座』

狼の星座(1) (講談社漫画文庫)

狼の星座(1) (講談社漫画文庫)

今月はじめに、日本人馬賊を描いた横山光輝のマンガ『狼の星座』1・2巻が文庫化されたが、不適切な表現があるとかで2巻だけ回収されたらしい。2巻には『ジャイアントロボ THE ANIMATION』にも出てきたヒロイン銀玲が登場するのに。
1985年に出たKCスペシャル版『狼の星座・第2集』をざっと見たところでは、「一年まえまでこじきどうぜんの下働きだった男がのう」(113p.)というセリフがあるが、これのせいなのかな。
(追記:215p.には「まるで屠殺場にひかれるヒツジのようだな」というセリフもあった。)


『狼の星座』の主人公のモデル小日向白朗は、現在の新潟県三条市に生まれた(去年七月の水害で五十嵐川が決壊したところ)。
三条市出身の有名人としては、他にジャイアント馬場、女優の水野久美X星人)、タレントの高橋克実(『ショムニ』『トリビアの泉』)、プロサッカー選手の川口信男ジュビロ磐田)などがいる。
三条市は五月一日に栄町及び下田村と合併するので、下田村出身の漢学者諸橋轍次(『大漢和辞典』)も五月から三条市出身ということになる。

『シャグパットの毛剃』ジョージ・メレディス、皆川正禧・訳(学研M文庫『ゴシック名訳集成 暴夜幻想譚』)

大志を抱く床屋の青年シブライは、謎の老女からシャグパットという男の髪を剃ることができれば栄達まちがいなしと予言されてその気になるが、それが天地を揺るがす大闘争を意味するとは思いもしなかった……という、英国製アラビアン・ファンタジー


この本の刊行予告を見るまで聞いたことの無い作品だったけど、予想以上に面白かった。
物語が始まって30ページ程のところから、主人公の語る「美人バナヴァー」の話になって、これが100ページ以上も続くのでどうなることかと思ったが、それ以降はおおむね普通にストーリーが進む。この「美人バナヴァー」だけで独立した中編になっていて、本編に劣らぬ傑作。この部分は私がイメージする「ゴシック小説」(暗黒小説)っぽいが、本編のほうは奇想天外で明るい、剣と魔法の一大ファンタジーだった。
リン・カーターは『ファンタジーの歴史』の中で、この作品の文章について「さしものファンタジー狂も、その読みにくさには随所で音をあげるだろう」(27p.中村融・訳)と書いているが、講談調の訳文は読みにくくはなかった。「八幡不知の小社と見える」(499p.)といった見慣れない表現が出てくるが、それもまた愉しい。

メタ架空国テーマ作品

メタ架空国テーマ作品というのは、作中で舞台が架空の国であることが明示されているものや、虚構なのか現実なのかはっきりしないもの、夢オチ、作中作の出てくるものなどを指す。


不思議の国のアリス』『鏡の国のアリスルイス・キャロル
「トーマス・シャップ氏の戴冠式ロード・ダンセイニ
『ピポ王子』ピエール・グリパリ
『プリンセス・ブライド』ウィリアム・ゴールドマン(フローリン)
はてしない物語ミヒャエル・エンデファンタージエン
『ゾッド・ワロップ』ウィリアム・ブラウニング・スペンサー
『記憶の国の王女』ロデリック・タウンリー
「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」ボルヘス(ウクバール)
「河童」芥川龍之介
『白髪小僧』夢野久作(藍丸国)
クラウド・コレクター』『すぐそこの遠い場所』クラフト・エヴィング商會(アゾット)
『マゴニア』イネケ・スミツ監督(マゴニア)映画

『白髪小僧』夢野久作(ちくま文庫『夢野久作全集1』)

昔あるところに、白髪小僧と呼ばれる白痴の浮浪者がいた。ある日、白髪小僧が銀杏の樹の下で昼寝をしていると、溺れかけている少女の悲鳴に起こされた。白髪小僧に助けられた少女・美留女は手に『白髪小僧』という本を持っていて、小僧のことは全てこの本に書かれているという。その本をめぐって青い眼の老人に追いかけられる二人。力つきて倒れた白髪小僧が目を覚ますとそこは藍丸国で、小僧はその国の王になっていた。その頃、美留女もまた藍丸国の大臣の娘・美紅として目覚め、美留女としての記憶は夢だったのだろうかと悩んでいた……。


何重にも及ぶ入れ子構造を持った東洋風異世界ファンタジー(未完)。
いちおう主人公の白髪小僧は途中で姿を消し、罪も無い善良な人々が無残な死を遂げ、ジャンプの打ち切りみたいなヤケクソなラストと、よくこれが童話として出版されたものだと思う。面白いけど、あんまり子ども向けではないような。
上に何重にも及ぶ入れ子構造と書いたが、ざっと読んだだけでは白髪小僧がいた元の世界と藍丸国とのニ重構造に見えるかもしれない。しかし、そこは『ドグラ・マグラ』の作者のこと。上に書いたあらすじの部分だけでも、『不思議の国のアリス』のように冒頭の昼寝から白髪小僧は目を覚ましてなくて、全ては小僧の夢なのかもしれない。また、美留女が『白髪小僧』を読んでいくと“現在”に達したところで本が白紙になってしまうが、そのこともまた作中作の『白髪小僧』の中の出来事なのかもしれない。
舞台が藍丸国に移った後も、途中から話が作中のキャラの語る物語にすりかわっているように思えるところがあったり、脇役の夢が(目覚めるまで夢だと明かされずに)割り込んで来たりする。未完に終わったのも、あんまり複雑にしすぎて収拾つけられなくなったからじゃないかなあ。

『リピート』乾くるみ(文芸春秋)

『SFが読みたい!』の作品紹介で、『マイナス・ゼロ』や『タイム・リープ』に連なる傑作というふうに誉められてたので買った。それらのように、時間旅行で生じた矛盾のつじつまを合わせるパズルのような話かと思ったら違ったが、意外な展開で、これはこれで非常に面白かった。
帯には『リプレイ』+『そして誰もいなくなった』とか書かれているが、もうひとつ、296p.で登場人物の一人が言いかけてる作品が元ネタか。アイディアのオリジナリティより、その使い方が重要なのだという見本。

購入

『リピート』乾くるみ文芸春秋
『ゴシック名訳集成 暴夜幻想譚』東雅夫編(学研M文庫)
『SFが読みたい!2005年版』(早川書房
本の雑誌 3月号」
『続リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』アラン・ムーアケビン・オニール(ジャイブ)


『SFが読みたい!』の東京創元社の予定にある『日本怪奇小説傑作集』と、河出文庫の『銀河ヒッチハイク・ガイド』の新訳が気になる。
『続リーグ・オブ(以下略)』は、映画『リーグ・オブ・レジェンド』の原作のメンバーが火星人と戦うアメコミ。本編よりもオマケの「新観光便覧」(世界架空国ツアーみたいな文章)目当てで買った。

DVD『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還 スペシャル・エクステンデッド・エディション』

ついに完結。
劇場で4回見た(おかげで腰を痛めた)が、やっぱり面白い。ペレンノール野での戦いの決着あたりまでが素晴らしい。その後はまあまあ。
追加シーンの目玉は、サルマンの最期と、ガンダルフvsアングマールの魔王だが、コミカルなシーンが増えていたのも良かった(ギムリレゴラスのやりとりとか、オークの指揮官の末路とか)。原作の「歌いながら戦うサム」があれば、もっと良かったのに。
数年前、SFマガジンか何かで『指輪物語』の映画化を知ったときには悪い予感がしたものだが、ここまでやってくれれば文句無し。