さまよえるユニコーン
巷では、映画『ナルニア国物語』がヒットしているらしいが、『ナルニア〜』と同じ頃に完成する予定だった『最後のユニコーン』はどうなったのかと調べてみたら、まだ撮影が始まってもいないらしい。
wikipedia“The Last Unicorn”
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Last_Unicorn
ウェブジンSequential Tartの論説“The Unicorn’s Last Stand?” by Wolfen Moondaughter
http://www.sequentialtart.com/archive/dec05/cv_1205_6.shtml
ピーター・S・ビーグル インタビュー
http://www.sequentialtart.com/article.php?id=51
私が理解したところでは
- 当初発表された出演者のうち、レネ・オーバジョノアー(キャプテン・カリー役)は出演依頼の話を聞いていない。ミア・ファローも正式に契約していない。
- 映画の公式サイトの出演者リストからクリストファー・リー以外の名が消えた。
- 映画情報サイトInternet Movie Databaseは実写版“Last Unicorn”のページを削除した。
- アニメの“Last Unicorn”のDVDは過去5年間で60万枚売れたが、権利を有するグラナダ・メディアはピーター・S・ビーグルに1ドルも支払っていない。そのためビーグルは、グラナダ・メディアを訴えようとしている。
- 実写版“Last Unicorn”の権利は、グラナダ・メディアがコンチネント・フィルムに売った。
- ビーグルは昨年『最後のユニコーン』の後日譚"Two Hearts"を発表した。さらにその続きとなる長編を書こうとしている。
- ビーグルは、別の映画会社が『最後のユニコーン』の続編に興味を示して、シリーズ全ての権利を買い取ってくれないかと期待している。
というようなことらしい。
私としては、映画そのものは最初から期待してないからどうでもいいのだけれど、映画化によって『指輪』や『ナルニア』のように『最後のユニコーン』が売れてくれればいいなあと思っていたので、当分(永久に?)映画が出来そうにないのはちょっと残念。
とりあえず、"Two Hearts"の翻訳を希望。SFマガジン年末恒例のファンタジイ特集あたりで(去年はブラッドベリ特集だったが)。
(追記)
PETER S. BEAGLE VS. GRANADA MEDIA INTERNATIONAL
http://www.conlanpress.com/html/granada_f.html
によると、グラナダ・メディアはビーグルに対し、これまでに900ドル支払っているとのこと。
『どんがらがん』アヴラム・デイヴィッドスン、殊能将之・編(河出書房新社)
デイヴィッドスンは、昔ソノラマ文庫で出てた『10月3日の目撃者』があんまり面白くなかった記憶があるが、これは読んでて愉しい粒ぞろいの傑作集。奇想コレクションの中で一番気に入った。
数年前SFマガジンで読んでデイヴィッドスンに対する認識を改めさせられた「そして赤い薔薇一輪を忘れずに」と、ひねくれたミステリ「すべての根っこに宿る力」と、バカSF「さもなくば海は牡蠣でいっぱいに」が特に良かった。
「さもなくば〜」は以前「あるいは牡蠣でいっぱいの海」(常盤新平・訳)を読んだときは凡作としか思えなかったけど、今回読み直したら印象がかなり違った。それはたぶん、終わり近くの自転車店主のセリフが違っているせいだろう。
常盤訳(アイザック・アシモフ編『ヒューゴー賞傑作集No.1』早川書房より)
「ああ、あれですか。古いフランス型の?ひゃ、あれはポンコツ屋行ですよ!」
若島正訳
「ああ、あれですか。あの老いぼれのフランス馬ね。あれはもう種馬にしてやりましたわ!」
常盤訳だと自転車店主が共同経営者の発見した恐るべき事実を否定しようとしているように読めたけど、若島訳だとそれを理解してるのが明確になって、結末の黒さが増していると思う。
伊藤重夫の単行本未収録作品
復刊ドットコムに「伊藤重夫の単行本未収録作品」のリクエストが出ている。需要あるのかなあ。
それよりも名作『踊るミシン』のほうが先だと思うが、こちらですら現在13票。うーむ。これは奇跡的な傑作で、読めない人が気の毒に思えるほどだ。特にポニーテール好きの人は必読。私のなかではポニテ少女ものとして、吾妻ひでお『スクラップ学園』と双璧をなす。最近のポニテ少女では『8マン・インフィニティ』の虎4が良い(あれはポニーテールというよりタイガーテールか)。
伊藤重夫の単行本未収録作品は、私が確認したところでは以下のものがある。
「コートにすみれ」Comic Box 84年1・2月号
「ワルキューレ1」夜行13号
「ママレードのプリンセス」COMICばく 昭和59年夏季号
「因数猫分解」夜行17号
「オレン時」A・ha 2号
「ダイヤモンド」A・ha 4・6・8・10・12号
他に「反省生活入門」「地震生活案内」などのエッセイ風の短編があるらしい。
私が編者なら、短編集『チョコレートスフィンクス考』に収録されてる「すみれ」と「チョコレート・スフィンクス・アゲイン」と「コートにすみれ」「ワルキューレ1」「ママレードのプリンセス」で“1冊まるごとヒロインがポニーテール作品集”にするね。ポニテ少女がちょっとだけ出てくる「因数猫分解」を加えても良い(「オレン時」と「ダイヤモンド」のヒロインはボブカット)。日本中のポニテ萌えの人たちが買ってくれることだろう。
横山光輝『狼の星座・2巻』
3月に回収された『狼の星座』の2巻が修正されて発売された。
修正箇所は215p.の
「まるで屠殺場にひかれるヒツジのようだな」→「すっかりうちひしがれているようだな」
「こじきどうぜん…」は変更なし。
奥付の表記は「2005年3月11日 第1刷発行」で変わらず。回収されたほうは帯が青で「3・4巻 4月発売!!」と書いてあり、今月出たほうは帯がオレンジ色で「3・4巻 5月発売予定!!」となっている。
「ダヤン」ミルチャ・エリアーデ、住谷春也・訳(『エリアーデ幻想小説全集・第3巻』作品社)
数学の天才にして、黒い眼帯をしているせいで“ダヤン”と呼ばれる大学生オロベテは、ある日“さまよえるユダヤ人”を名乗る老人に出会う。その老人は、不思議な力を使ってダヤンの左右の目を取り換えてしまうが、そのためにダヤンは秘密警察から目を付けられてしまう。さまよえるユダヤ人は、ダヤンを通常とは異なる時間の流れる世界に導き、ダヤンが研究している、時空と重力を統合し人間を時間から解放する“最終方程式”が完成する日が近いと保証する。だが何も知らない秘密警察の手が及び、ダヤンは捕えられてしまう……。
ほとんどSFであり、救世主(?)の受難劇であり、個人を抑圧する共産主義社会に対する風刺であり…と、様々な読み方が可能な珠玉の短編。私がこれまでに読んだ短編小説のなかで1,2を争う傑作。
1年半ほど前『エリアーデ幻想小説全集』で検索したら、「これで以前借りて読んで衝撃を受けた「ダヤン」を手元に置ける」と喜んでる人が3人くらいいた。
これはルーマニア語版からの翻訳で、以前筑摩書房から出ていた『ダヤン・ゆりの花蔭に』(野村美紀子訳)はドイツ語版とフランス語版からの重訳だが、後者に有って前者に無いセリフがある。
住谷訳
オロベテは改めて振り向き、限りない悲しみのこもった視線を注いだ。老人は微笑みを浮かべて頷いた。(479p.)
野村訳
オロベテはあらためて老人を見返り、量りしれぬ悲哀を湛えた眼でみつめた。
「お答えする資格がわたしにはないんですよ、先生。おわかりでしょう……」
老人は微笑してうなずいた。(108p.)
作者の死後に出たルーマニア語版のほうが決定稿なのかな。