ビデオ『The Last Unicorn』(ネタバレあり)

Last Unicorn [VHS]
日本未公開のアニメーション映画(1982年)の日本未発売ビデオ(英語版)
監督:アーサー・ランキン・ジュニア&ジュールス・バス
原作・脚本:ピーター・S・ビーグル
声の出演:ミア・ファローユニコーン)、アラン・アーキン(シュメンドリック)、タミー・グライムス(モリー)、ジェフ・ブリッジス(リーア)、クリストファー・リー(ハガード)


原作のネタバレもあり。
セリフの引用はすべて、『最後のユニコーン』(ピーター・S・ビーグル鏡明・訳、ハヤカワ文庫FT、二〇〇三年十月・八刷)より。


世界でただ一頭だけ残ったユニコーンが、消えた仲間を探すというモダン・ファンタジーの名作のアニメ化。現在、実写映画が製作中。
スタジオジブリの前身であるトップクラフトが製作していて、エンドロールに日本人の名が多数流れる。映画『風の谷のナウシカ』の有名なシーンがこの作品のパクリではないか、という説をどこかで読んだ記憶があるが、インスピレーションの源にはなったのかもしれない。


ストーリーは、ハグスゲイトのエピソードをまるまるカットしている(だからハガード城にかけられた呪いも出てこない)のと、シュメンドリックの宿命についての説明が無いこと以外は、ほぼ原作どおり。セリフもほとんど原作からとられているが、無くても意味が通じるような部分はカットされている。たとえば始めのほうの狩人のセリフ


「自分の森にとどまっていろ。木々を緑に保ち、友たちを長生きさせるのだ。若い娘たちに、気を引かれるんじゃないぞ。彼女たちの成れの果ては、おろかな老女となるに決まっているのだから。幸運を祈っているぞ」(原作12p.)


の下線を引いた部分が無い。こんな名もないキャラでさえ、気のきいたセリフを言う(細部に神が宿っている!)のが原作の魅力のひとつなのに。
全体に原作のシニカルなところや意地悪なユーモアは抑えられていて、わかりやすい単純な笑い(魔法で錠を開けようとして失敗するシュメンドリックとか、木に縛りつけられて魔法で逃れようとして失敗するシュメンドリックとか、ハガード王に手品を見せようとして失敗するシュメンドリックとか)は残っている。また原作の、ファンタジーのパロディになっているところ(ロビン・フッドに憧れる山賊たちが市民に搾取されてたり、ハグスゲイトの住民が呪いの裏をかこうとしていたり)や、登場人物が物語のお約束を意識していたりするところも、ほんの少ししか残っていない(「ハッピー・エンドは物語の最中にやってきてはならない」(322p.)くらい)。


で、ほかに何が有るのかというと、愛が世界を救うという分かりやすいメッセージと、泣かせるところ。モリーが「二十年前には、十年前には、あんたはどこにいたんだい?」(127p.)と言うところと、クライマックスのあれがアレするところには泣けた。それでも原作の感動には及ばないが。キャラクター・デザインは、リーア王子が戦うドラゴン(あちゃー)以外は許容範囲。ユニコーンはなかなか優美に描かれている。アマルシア姫はちょっと松本零士キャラ風。ミア・ファロークリストファー・リーモリーの中の人の声の演技が良いような気がした。だから、そんなに悪くなかったし、原作知らない状態でなら劇場で1800円払って見たとしても満足しただろうけど、私が愛する『最後のユニコーン』の映画化としてはちょっとばかし期待を下回ったというところ。
実写映画のほうも原作とは別物と思って、それなりに楽しみに待つとしよう。